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彩の国さいたま芸術劇場 |
彩の国さいたま芸術劇場 近藤良平芸術監督 就任インタビュー
2022 年4 月、近藤良平芸術監督による彩の国さいたま芸術劇場の新体制がスタートします!
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新体制のテーマは「クロッシング」
「クロッシング」という言葉には、〈多彩なアーティストがクロス〉〈地域あるいは地域間でクロス〉〈多様な人々がクロス〉という、3つの“クロス”の意味が込められています。さまざまなジャンルのアーティストが刺激を与えあい、交わり合うことで新しい表現を生み出したいと考えています。そうすれば、お客様も関心のあるジャンル以外にもいろいろな表現に触れ、楽しみが広がることになるでしょう。そして地元であるさいたま市、県内各地の自治体や公共ホール、学校、文化団体、全国の公共劇場やホールとも繋がって、刺激的な創造の交換ができればと考えています。
〈多彩なアーティストがクロス〉
ジャンル・クロスが舞台芸術を強く、面白くする
就任後1本目の作品は、長塚圭史さんとのコラボレーションとなる『新世界』です。長塚さんと組むこと自体が“クロッシング”で、ダンス・演劇・音楽、さまざまな「声」が聞こえてくる舞台になりそうです。就任後初の作品ですから、「エンジンかけてやっていくぞ」という決意表明のような公演になればと考えています。
そして7月の作品は松井周さんが脚本を書き下ろし、私が演出します。不条理劇テイストのお芝居を考えていて。意外に思われるかもしれませんが、僕の中では不条理劇は親近感を覚える世界観なんです。出演者も少なく、ミニマムな空間で、五感で感じさせるような実験的な作品を構想しています。
6月は毎年恒例のコンドルズ新作です。コンドルズ自体がジャンル・クロスそのもの。これだけバリエーションの豊かな人間が揃っていますから、観客にとって自分を重ねる人間が必ず一人はいるはずです。「世の中にはいろんな人がいるんだな」と感じながら、共感していただければと思います。
〈地域あるいは地域間でクロス〉
埼玉に根をはり、日本全国へもつながる
埼玉から全国への発信は今後も継続したいと思っています。これまでもシェイクスピアや藤田貴大さん(マームとジプシー)の作品を全国の公共劇場で巡回してきました。埼玉で生まれた舞台を全国に持っていく、さらには新しい公共劇場間連携のあり方を探りたいですね。
《地域とつながる》という意味では、8月、昨年に引き続きオープンシアター企画『ダンスのある星に生まれて2022』を開催します。このオープンシアターのコンセプトは「子ども目線で劇場の楽しさを感じてもらいたい」なんです。劇場全体で多種多様なダンスの在り方を紹介し、劇場や舞台芸術を身近に感じてもらいたい。屋外でマルシェを開催したり、最寄りである与野本町駅からの道のりでも、地域を巻き込んで面白いことができればと思っています。
劇場休館期間(2022年10月~2024年2月)は、劇場から外に飛び出すキャラバン企画『埼玉回遊』がスタートします。休館中は埼玉会館(浦和)を拠点にしつつ、県内各地をアーティストが訪れて地域文化の掘り起こしを試みたり、その土地の人々と一緒に作品を発表する企画も考えています。劇場が再オープンした時の新たな筋力をつけるための、大事な事業です。
〈多様な人々がクロス〉
劇場が積み上げた経験を引き継ぎ拡張する
蜷川幸雄前芸術監督のつくりあげたレガシー、彩の国シェイクスピア・シリーズに関しては、37作品完結後も、シリーズの芸術監督である吉田鋼太郎さんと新しい展開を相談しています。挑戦的な試みができる劇作家や演出家とも、仕事をしていきたいと考えています。
また新たに、「さいたまゴールド・シアター」、「さいたまネクスト・シアター」のような高齢者や若者に限らず、あらゆる世代、有名無名にこだわらない表現者を集めたゆるやかなグループの活動を構想中です。皆で未だ見ぬ表現を探していきたいんです。さまざまな人が「クロッシング」することによって、小さな共同体のような活動ができればと考えています。
今後のダンスに関しては、「ダンスのさいたま」をつくってきた理由の一つである海外のアーティストやカンパニーの紹介はもちろん続けていくべきだと思っています。また、これまでも若手ダンサーを対象にした育成ワークショップや中堅アーティストのクリエイション、ダンスの枠を超えた実験的な創作プログラムも展開していますが、私自身も「ジャンル・クロス」の視点を取り入れたクリエイター育成に挑戦していきたいです。
そしてこの劇場は音楽ホールも素晴らしいんです。アコースティックな音響や温かみのある空間を生かしたバッハ・コレギウム・ジャパンや若い気鋭アーティストを起用したピアノ・エトワール・シリーズなどのラインナップを今後も続けていくとともに、他ジャンルとのクロス企画も工夫していきたいと思います。
劇場は、アーティストであれ、地域の人々であれ、芸術的な探求をしたい人たちのサンクチュアリ(保護区)のはずなんです。一歩劇場に足を踏み入れれば「作っていいんだ、表現していいんだ」と思える……そんな場になればうれしいですね。散歩のついででもいいから、誰もがふらりと立ち寄れる劇場にしたいんですよね。そのためには舞台だけではなく、劇場自体がワクワクするような仕掛けを工夫しないといけないと思っています。
(取材・文◎川添史子)
近藤良平 プロフィール
1968年、東京都出身、ペルー・チリ・アルゼンチン育ち。振付家・ダンサー/コンドルズ主宰。1996年に自身のダンスカンパニー「コンドルズ」を旗揚げし、全作品の構成・映像・振付を手がける。世界約30ヶ国で公演を開催。NHK総合『サラリーマンNEO』振付出演、NHK連続テレビ小説『てっぱん』、NHK大河ドラマ『いだてん』振付。0歳児からの子ども向け観客参加型公演「コンドルズの遊育計画」や埼玉県との共働による障害者によるダンスチーム「ハンドルズ」公演(2009年~)など、多様なアプローチでダンスを通じた社会貢献にも取り組んでいる。当劇場では、2006年からコンドルズ埼玉新作公演を行う。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞、第67回横浜文化賞受賞。2022年4月1日、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任。