Vol.111
2024年10月号
埼玉会館
2023年5月
9日(火)10:30/14:30/18:30
【問い合わせ先】 埼玉映画ネットワーク048-762-9407
※前売券なし・当日現金支払いのみ・全席自由・各回入替制・整理券制
スワンソング、白鳥の歌。
白鳥がこの世を去るとき、最も美しい声で歌うとされる伝説から生まれた、この言葉。芸術や匠の技に身をささげた者たちが、人生最後に残した作品、最期のパフォーマンス、つまり有終の美が「スワンソング」と表現されています。
人は誰もが年齢を重ねます。そして時代とともに社会や生き方、価値観は大きく変わってゆきます。そんな中にあって、不変な何かもあるのではないでしょうか?
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ヘアメイクドレッサーとして活躍してきたパトリック・ピッツェンバーガー、通称”ミスター・パット”は実在の人物がモデルです。監督のトッド・スティーブンスは、17歳の時にオハイオ州のゲイクラブでミスター・パッドが踊っているのを見て、衝撃を受けたといいます。映画の道へ進んでから、いつか同郷のこの人気ヘアメイクドレッサーを題材にしたいと思い続け、その念願をかなえたわけです。本作はエイズが蔓延した1990年代から現在に至るゲイカルチャーを真摯に見つめ、ゲイカップルの描き方にも愛が満ち溢れています。社会的な立ち位置や相続問題などリアルなトピックも物語に取り込むことで、LGB|TQ+(必ずしも分類されていない様々な立場の性的少数者を含む言葉)映画の一本として、この『スワンソング』は誠実に仕上げられた作品といえるでしょう。
自身の内面と葛藤しながら観る人に感情移入させる、まさに俳優冥利に尽きる主人公パットを演じるのは、ドイツ出身でハリウッド作品でも活躍する世界的名優、ウド・ギアーです。初期の『悪魔のはらわた』から、近年はラース・フォン・トリアー作品まで怪優ぶりも発揮するキアですが、その強烈な個性はそのままに、人生最後の仕事への逡巡をエモーショナルに表現しています。時には激しく感情をあらわにして、時には静かに哀感を漂わせ、共感を誘う名演技を披露しています。
この『スワンソング』は、サウンドトラックも魅力的です。「あなたしかみえない」という日本語のカバー曲も生まれた、メリッサ・マンチェスターの「哀しみは心に秘めて(Don’t Cry Out Loud)」をはじめ、ジュディ・ガーランド、シャーリー・ダスティ・スプリングフィールドなどの名曲が使われているのですが、その歌詞がストーリー、およびパットの心情に見事にシンクロしているのです。観終わった後も、歌詞とメロディが頭の中でリフレインするという、ニードルドロップ(既存の曲を映画音楽に使用すること)の成功例と言える一作でしょう。
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人生の最後に、人は何を残すことができるのか?そんな疑問に突き動かされるようにパッドは、多くの人と出会い、過去の自分と向き合うことで、決意を固めてゆきます。それは、ささやかながらもいつか誰もが向き合うことになる、人生最後の決断でもあるのではないでしょうか?
自分の使命がすでに終わったと思っていたパッドがもう一度、実力を示そうと決めたように、命が続く限り、人は新たな出会いと発見を繰り返し、希望を見出すことができる。そして知らず知らずのうちに、誰かの人生を変えることだってできる。『スワンソング』は、観る人すべてが “変わる” ポテンシャルをもった映画といえるでしょう。
そして、何かと話題となる「終活」というトピックを描くのはもちろんのこと、多くの人が人生で迷いを感じた時に背中を押してくれる、そんな勇気を与える感動作、それが『スワンソング』なのです。
オハイオ州の小さな町、サンダスキーの老人ホーム。
パトリック・ピッツェンバーガーは、静かな余生を送っていた。ホームの職員から注意を受けても聞き流し、日課といえば食堂の紙ナプキンを自室に持ち帰り、丁寧におり直すことくらい。
しかし、パトリックの心には過去の思い出がつねに去来しているのだった。ヘアメイクドレッサーだった彼のサロンは街でも大人気。「ミスター・パッド」と呼ばれ、顧客から愛されていたこと。そして愛する恋人デビッドとの生活、彼を早くに失たこと、など・・。
そんなパッドを、ある日、弁護士が訪ねてくる。かつてのパッドの顧客で、街でも一番の金持ちであったリタが亡くなったこと、リタは「死化粧はパットに頼んでほしい」と遺言したと告げられる。その報酬は高額でパットは驚くと同時に、リタへの複雑な思いや、すでに現役を引退した現実から、その申し出を断ってしまうのだった。
しかし、パットはリタの遺言に動揺を隠せないでいた。そして自分の輝いていた過去の時間に益々思いをはせるのだった。そして同じホームに暮らす女性の紙を美しくセットする機会を経て、自分の腕が衰えていないことにも気づくことになる。
こうして本能に突き動かされるように、パットは老人ホームを抜け出すのだが・・・・。
日時 | 2023年5月 |
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会場 | 埼玉会館 小ホール |
作品情報 | 【監督・脚本】 トッド・スティーブンス 【音 楽】 クリス・スティーブンス 【ヘアメイク】 リディア・カネ 【出 演】 ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス
(2021年/アメリカ/105分) |
主催 | 特定非営利活動法人埼玉映画ネットワーク |
提携 | 埼玉会館 |
お読みください | ◆体調のすぐれない方、37.5度以上(あるいは平熱より1度以上)の熱がある方のご来場は、ご遠慮ください。 ◆こまめな手洗い、手指消毒ご利用を推奨しています。「咳エチケット」にご協力ください。 ◆周囲の方と触れ合わない程度の距離を確保するようにご配慮をお願いします。 ◆スタッフは検温を実施し、健康状態を確認のうえ、当面はマスクを着用して対応させていただきます。異常がある場合は業務につきません。また、手指消毒を実施しています。 ◆会場内は、法令にもとづき機械設備による十分な換気が行われています。
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料金 (税込) |
【全席自由】 |
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