Vol.111
2024年10月号
埼玉会館
2024年10月
8日(火)10:30/14:30/18:30
【問い合わせ先】 埼玉映画ネットワーク048-762-9407
※前売券なし・当日現金支払いのみ・全席自由・各回入替制・整理券制
◎14:30の回終了後に、アフターセミナーあり。
美談の英雄に祭り上げられた男—彼は本物の英雄か、詐欺師(ペテン師)か
イランの古都シラーズ。ラヒムは借金の罪で投獄され服役している。そんな彼の婚約者が偶然にも大量の金貨を拾う。借金を返済すれば出所できる彼にとって、まさに神からの贈りもののように思えた。しかし、罪悪感に苛まれたラヒムは落とし主に返すことを決意。そのささやかな善行は、メディアで大々的に報じられ、“正直者の囚人”と英雄に祭り上げられる。ところが、SNSを介して広まったある噂をきっかけに状況は一変。周囲の狂騒に翻弄され、父親を信じる無垢な吃音症の幼い息子をも残酷に巻き込んだ大事件へと発展していく―。予測不可能な極上なヒューマン・サスペンスが誕生した。
“英雄”ラヒムをめぐって、彼の行いを褒め称える者、利用しようとする者、疑惑の眼差しを向ける者たちの思惑が絡み合う本作は、人間の倫理観を問うサスペンス劇である。ファルハディ監督はそうした普遍的なテーマを追求するにあたって、いまや世界中で絶大となったSNSやメディアの影響力に着目。英雄として持ち上げられ、一方で詐欺師(ペテン師)と呼ばれるラヒムのとてつもなく振れ幅の大きな運命を通して、真実というものの曖昧さや、社会に潜むエゴを現代的な切り口であぶり出す。
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2度の米アカデミー賞受賞監督アスガー・ファルハディ。社会に渦巻く歪んだ正義と不条理を、現代に生きる私たちに突きつけてくる。
2011年の『別離』でベルリン国際映画祭にて3冠に輝き、2016年の『セールスマン』ではカンヌ国際映画祭の男優賞、脚本賞をダブル受賞。この2作品で米アカデミー賞外国語映画賞も制したアスガー・ファルハディ監督は、今や誰もが認める世界的な巨匠である。
母国イランとヨーロッパを股にかけて活躍するファルハディ監督は、人間と社会の本質に鋭く切り込む傑作を世に送り出してきたが、緻密な脚本や演出力に裏打ちされたその作風は、このうえなく濃密なサスペンスの要素をはらんでいる。ごく穏やかな日常の中に生じた小さなひび割れのような出来事が、登場人物の人生を根底から揺るがす事態に発展していく様を、張り詰めた緊張感を持ちつつ情感豊かに描出。その比類なきストーリーテリングの妙味が世界中の観客を魅了してきた。
ファルハディ監督の長編第9作『英雄の証明』は、数多くの古代遺跡が現存する南西部の古都シラーズを舞台に、借金苦にあえぐ男に突然舞い込んだ苦境打開のチャンスを描くサスペンスフルな物語。第74回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、2021年米アカデミー賞国際長編映画賞・ショートリストにも選定された本作は、まぎれもなくファルハディ監督の代表作となるだろう。
アスガー・ファルハディ監督 インタビュー
—ラヒムの性格は多義的であるように思います。彼の顔にいつも浮かんでいる微笑について考えているのですが…
この映画が写実主義的なアプローチを取っているが故に、登場人物の性格がそれほどまでに複雑でなければならなくなったのだと感じています。現実の世界でも、人々は、非常に多数の次元で構成されていて、時としてその内のひとつが強くなって一際目立つようになるわけです。この映画に登場するのは言わば「グレー」な登場人物たちです。型にはまっておらず、一面的でもないのです。日々の生活に登場する実在の人物のように、この映画の登場人物たちには陰影があり、また彼らは相反する感情をもつ傾向があり、決断しなければならなくなると苦悩してしまうというわけです。
ラヒムの微笑は、ラヒム役の俳優が数ヶ月間のリハーサルでどのような演技をするか絞り込んでいく中で段々と露になってきたラヒムの特徴の集合体の一部です。登場人物のラヒムに日常生活の一部である「グレー」な性格を与えるにはどうすれば良いかということだったのです。
—登場人物のほとんどがソーシャルメディアでコミュニケーションを行います。それは、イランにおいて新しく勢いのある現象なのでしょうか?
世界のあらゆる場所と同じくイランでもソーシャルメディアは人々の生活の中で重要なものです。この現象は、比較的新しいものですが、それ以前の生活がどんなものであったか思い出す事が困難なほど、強い影響力を持っています。私は、個人的な体験から、ソーシャルメディアの影響は他のどこよりもイランにおいて明らかだと確信しています。これはこの国の社会政治的情勢によって説明可能だと私は考えています。
—監督のいずれの作品においても、観客は最後にすべての答えを得られることがありません。決まった結末を観客に提供することを選択したくないのですか?
…私の作品に共通するこの特異性は意図的なものではありません。この多義性は、ほとんど私自身の多義性のようなものですが、脚本執筆段階で自然と発生するものです。そして、私がそれを気に入っていることは間違いありません。この側面は、映画と観客の関わりを、上映時間後も続くほど、長持ちするものにしてくれます。その映画についてさらに思案する可能性を与えてくれるというわけです。『羅生門』を見る楽しみは、まさにこの謎めいた部分にあります。多義性を、日常生活を取り扱った物語と組み合わせることは、面白さと難しさを兼ね備えたやりがいのある課題です。
元看板職人のラヒムは借金を返せなかった罪で投獄されている服役囚だ。そんな彼の婚約者が、偶然にも17枚の金貨が入ったバッグを拾う。それは将来を誓い合った恋人たちにとって、まさしく神からの贈り物のように思えた。借金を返済さえすれば、その日にでも出所できるラヒムは、金貨を元手にして訴訟を取り下げてもらおうと奔走するも示談交渉は失敗。いつしか罪悪感を持ち始め、金貨を落とし主に返すことを決意する。するとそのささやかな善行は、メディアに報じられ大反響を呼び“正直者の囚人”という美談の英雄に祭り上げられていく。吃音症の幼い息子もそんな父の姿を誇らしく感じていた。借金返済のための寄付金が殺到し、出所後の就職先も斡旋されたラヒムは、未来への希望に胸をふくらませる。ところがSNSを介して広まったある噂をきっかけに状況は一変し、周囲の狂騒に翻弄され、汚された名誉を挽回するためラヒムは悪意のない嘘をついてしまう……。
◎アフターセミナー
「中東・イスラーム世界とSNS」
◇日時:2024年10月8日(火)14:30の回終了後
◇場所:埼玉会館 小ホール
◇ゲスト:佐野 光子さん(アラブ映画研究者)
日時 | 2024年10月 |
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会場 | 埼玉会館 小ホール |
作品情報 | 監督・脚本・製作:アスガー・ファルハディ 出演:アミル・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、サリナ・ファルハディ 2021年/イラン・フランス/ペルシア語/127分/原題:GHAHREMAN/ 英題:A HERO
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主催 | 特定非営利活動法人埼玉映画ネットワーク |
提携 | 埼玉会館 |
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料金 (税込) |
【全席自由】 |
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