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彩の国さいたま芸術劇場 |

演劇

『めにみえない みみにしたい』 藤田貴大×原田郁子 対談

2019年6月07日

2013年と2015年に『cocoon』でタッグを組んだ、マームとジプシーの藤田貴大と、クラムボンの原田郁子。その3年後、2018年に2人が新たに取り組んだのが、“子どもから大人まで一緒に楽しめる演劇作品”『めにみえない みみにしたい』だ。2019年は彩の国さいたま芸術劇場を皮切りに、全国14カ所をツアーする本作。初演を振り返りつつ、2人が作品に込めた思いを改めて聞いた。

 

取材・文:凛(演劇ライター) Photo:井上佐由紀

 

“子どもから大人まで一緒に楽しめる”ために意識したこと

 

藤田 子どもが観るってことを特に意識はしてないんですけど、子どもを扱った作品にしたいという思いは持っていました。というのも、2013年に『cocoon』(沖縄戦に動員された少女たちから想を得て描いた、今日マチ子の漫画の舞台化)を作った時、郁子さんとは“戦争をいかに描くか”ということより、“あの季節に子どもたちがあんな思いをした”ことについて、ずっと話していた気がして。だから『cocoon』が終わった後も、僕と郁子さんの中では子どもという漠然としたモチーフがずっとあったと思うんです。で、ある時、“郁子さんと一緒に、子どもが観る作品を作る”という夢を見て、すぐに郁子さんに電話して(笑)。
原田 『cocoon』という作品は自分にとっても大きくて、みんなと一緒に走り抜けて、私も一度死んだんじゃないか、というくらい。でも、どこか終わらない感覚もずっとあって。その後、藤田くんが福島の中高生と作ったミュージカル『タイムライン』を観て、クラムボンの新曲のタイトルに「タイムライン」と付けさせてもらったり、やりとりは続いていました。なので、電話をもらってすごく嬉しかったです。

 

 

 

物語と共にダイナミックに変化する音楽

 

藤田 『cocoon』の時もそうだったけど、物語と音楽は、実際に郁子さんと作りながら同時進行で決まっていったと思います。郁子さんの作業を見ながら僕が脚本を書き、ちょっとできたシーンを郁子さんが見て曲ができ……って感じで、郁子さんがしゃべったことがテキストになったり、僕がしゃべったことが歌詞になったりっていう不思議な現象があって(笑)。
原田 目に見えないけど、頭の上の方で作っていくような(笑)。『cocoon』の時は関わるキャストもスタッフもたくさんいて大きな現場だったんですけど、『めにみえない〜』はもっとシンプルで、削ぎ落とされていた。例えば、藤田くん自身が劇中の音楽を流したり、役者さんたちが生音で楽器を鳴らしたり歌ったり、子どもたちが楽しめるような工夫や遊びも随所にあって。
藤田 自然とそうなりましたね。『cocoon』って当時のマームでは一番大きな作品でいろいろ注ぎ込んでいたので、『めにみえない〜』はもっと要素を間引いて、原石だけみたいな作品にしたいなと思ったんです。そのベースには、郁子さんのソロアルバム「ケモノと魔法」がありました。郁子さんの曲はいつも、1曲聴くと次の曲の前にちょっと考える“間”が必要なんです。特に「ケモノと魔法」は、ラスト2曲の《ユニコーン》と《もうすぐ夜があける》の間に何があるのかを、僕はずっと探してて、実際、その2曲を劇中で使っています。
原田 あの2曲はすごく音が少ないんですよね、そういうところを藤田くんは感じ取ってくれたのかな?
藤田 音もだけど、歌詞がね。人が人から生まれるって、なんだか僕にはまだ全然想像がつかないところがあって。《ユニコーン》の歌詞には、それをほのめかすような言葉があると思うんです。例えば、人が生まれなければ孤独なんか知らないし、つらい思いも生まれなかったかもしれないのに、なぜ人は人を生み、人生をまたゼロからやり直すようなことをするのかって考えてしまう。だから子どもたちがわさわさ〜っている様子を観ると、ちょっと苦しくなるっていうか……。
原田 うん。個人的には苦手だったり直視しづらいようなところも、作品の中では考えたり、どうにか対峙しようとするのかな。今回、《もうすぐ夜があける》は舞台用に歌詞を書き換えて録音して、《ユニコーン》は、劇場の隣にあるさいたま市立与野西中学校の吹奏楽部の皆さんに参加してもらいました。スケジュールがタイトだったので、「どうなるかな」と思ったんですけど、一音めが「ファー」ってなった瞬間に涙腺が(笑)。きっと誰もが経験している、放課後の音楽室から聴こえてくるブラバンの音、まさにあの音がして。わぁ、なんてピュアなんだろうって。その後、劇場に戻って、実際に公演する劇場のスピーカーで鳴らしながら、編集、MIX作業を行ったのですが、そういう作業の進め方もシンプルでありがたかったです。

 

 

 

映像やシャボン玉、生演奏……演劇の楽しさが詰まった演出

 

藤田 僕、子ども向けの演劇とかダンスの雰囲気って実は苦手で。“じゃあ子ども向けじゃない作品は、子どもが観ちゃダメなの?”と思う。僕は自分の作品を誰が観にきても構わないし、子どもに観てもらうこともいつも想像しながら作品を作ってきたつもりだから。ただ、ゲネプロが終わったときに、実はちょっとした不安があったんです。
原田 ゲネプロで初めて子どもたちにも参加してもらったんですけど、だんだん別のことをして遊び始めたり、「お腹空いたー」ってお喋りし出したり、演劇としては後半からぐっと集中してほしいところなんだけど、なるほど、これは持たないぞって。
藤田 そのとき、郁子さんから「みんなで手拍子をしてみたら?」とか「打楽器を使ってみよう」という提案があって、すぐ取り入れることにしたんですね。でもそれって、子どもに対してというより、普段からライブをしているミュージシャンの感覚だと思ったんですよね。観客の心を、ある一定の時間、どう掴み続けるかっていう。特に今は、現実世界と繋がりやすくなっていて、携帯を開けばSNSがすぐ見られるし、特に子どもって僕らの倍速でいろんなことに影響を受けてると思うんです。その子たちの関心を集め続けるのってけっこうな技術が必要で。でも郁子さんとのクリエーションでは、タイトル通り、“目に見えない、でも耳にしたい、触ってみたい”というような重要なものの原液が、量にしたら目薬1滴くらいかもしれないんだけど(笑)、詰まってる気がしていて。そういうものに触れた子どもが、大人になった時にとんでもないものを作ってくれるんじゃないかって、そのことに期待してます。
原田 今、藤田くんの話を聞いていて思い出したことがあって…ちょっと違う話をしてもいいですか? 先日、あるインタビューを読んで久しぶりに感銘を受けたんですけど、凶悪犯罪の加害者たちを取材してきた作家・吉岡忍さんの「なぜ、彼は人を殺したのか」という記事です。その中で、加害者たちの共通点として挙げていたのが、想像力の欠如だと。自分が興味のあること以外は無関心で、例えば何十年か前に日本で戦争があったことを知らなかったり、これをしたら相手がどう感じるか、痛みや気持ちがわからなかったり。「どうしたらいいと思いますか?」というインタビュアーの質問に、吉岡さんは「物語が必要だ」と答えた。残酷さや悲惨さを物語の中で経験して、現実世界ではなんとか踏みとどまれるような、そういう新しい物語が必要だと。藤田くんたちが取り組んでいる舞台というものは、ものすごく手間をかけて準備して、その日が終われば消えてしまう生のもの。だけど、まさしく“物語の体験”なんじゃないかなって。
藤田 僕も新しい物語についてはずっと考えています。例えばアニメーションでユニコーンの画を見ることもできるかもしれないけど、劇場でユニコーンを“見る”ことができるのってすごく贅沢なことだと思うんです。そんな新しい語り継がれ方をするような、新たな物語を立ち上げることが今、必要な気がしますね。

 

 

 

再演で変わること

 

藤田 実はいろんな音が出る木を見つけちゃって。箱みたいな形をしてるんだけどそれが机ぐらい大きくて、いろいろな場所を叩くと音が出るんです。
原田 へー、面白そう! 楽器なの?
藤田 楽器ですね。なんかそういう音が鳴るものを増やしてみたいと思ってはいるんだけど、初演から基本的には大きく変えず、でももっと面白くなりそうだなってところにだけ、ちょっと手を入れていく感じかなと。ただ、今年はものすごくたくさんツアーに行くんですよ!
原田 北海道から沖縄まで……どんなことになるんだろう!?「バンドじゃないよね?演劇だよね?」っていうツアースケジュール(笑)。
藤田 そう(笑)。昨年も彩の国さいたま芸術劇場公演と吉川公演では子どもたちの感じがだいぶ違ったんだけど、今回は上演する場所によって、もっといろいろなことが変わってくるだろうなと思ってます。

 

 

(「埼玉アーツシアター通信Vol.81」より加筆)

 


『めにみえない みみにしたい』
2019年7月13日(土)〜7月15日(月・祝)
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール  公演詳細ページはこちら

 

◆全国ツアー◆
[北九州]7月20日(土)・21日(日) 北九州芸術劇場 小劇場
[那覇] 7月24日(水) てんぶす那覇 ホール
[京都] 7月27日(土) 京都芸術劇場 春秋座(特設客席)
[富良野]8月 3日 (土) 富良野演劇工場(舞台上)
[士別] 8月 5日 (月) あさひサンライズホール こだまホール(舞台上)
[伊達] 8月 8日 (木) だて歴史の杜カルチャーセンター 大ホール(舞台上)
[札幌] 8月10日(土)・11日(日) 札幌文化芸術劇場 クリエイティブスタジオ
[久留米]8月15日(木) 久留米シティプラザ Cボックス
[福岡] 8月17日(土)・18日(日) 福岡市民会館 大ホール(舞台上)
[熊本] 8月20日(火)・21日(水) 熊本県立劇場 演劇ホール(舞台上)
[東松山]8月24日(土) 東松山市民文化センター ホール(舞台上)
[小金井]8月27日(火) 小金井 宮地楽器ホール 小ホール
[池袋] 8月31日(土)・9月1日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト