Vol.112
2024年12月号
彩の国さいたま芸術劇場 |
11月24日(土)、彩の国シェイクスピア講座Vol.2『ヘンリー五世』徹底勉強会第2回「知らないようで慣れ親しんでいる『ヘンリー五世』の世界〜影響と受容」講師:北村紗衣(武蔵大学准教授)が開催されました。
まず、『ヘンリー五世』について簡単におさらいしましょう。
1599年に初演された歴史劇で、グローブ座のような屋根の開いた丸い劇場で上演されたと考えられています。話はヘンリー五世が戦いでフランスに勝利し、フランス王女キャサリンと婚約するまでを描いており、フランスに勝利する話のためイングランド人の愛国心を刺激する作品になっています。『ヘンリー五世』の面白いところは?と聞かれたら、戦争アクションだと思ってください。戦いのシーンで、ひいきの役者が間近で殺陣を行っていて、ファンに嬉しい作品になっていました。
一時期上演されていませんでしたが、現在はイングランドやアメリカ、カナダなど英語圏で上演されることが多くなりました。日本ではあまり上演されておらず、馴染みが薄い作品ですが知らないうちにヘンリー五世に影響を受けたコンテンツに触れているかもしれません。
この作品には、大きい見せ場と言われている場面が2箇所あります。【第3幕第1場のハーフラーの演説】と【第4幕第3場のアジンコートの演説】です。
【第3幕第1場のハーフラーの演説】から見てみましょう。このシーンは、北フランスの港町が1415年8月から9月ごろにイングランド軍に包囲されたとき、戦っている最中に突撃する兵士たちを元気づけるための演説です。一節に「勇気を奮って戦わないと、母親に不貞の汚名を着せることになるぞ」とこの時代の芝居の定型的な表現が使われています。これは【勇気を見せないということは、父親から勇気を受け継いでいないということになり、お前は母親が不倫をして生まれた子供だという疑いが出てくるぞ】と父親と母親の名誉のために戦いなさいということを言います。…(中略)… 同じシーンでも、例えば馬から降りずに上から早口で話していたり、馬から降りて他の兵士たちと同じ目線で身体に触れながら話したりと全く違う演出がされています。
1番有名なのが、【第4幕第3場のアジンコートの演説】になります。圧倒的不利な状況を覆すべく士気を鼓舞するための演説を【アジンコートの演説】と言って、英語圏では日常的にもよく引用されています。…(中略)…同じキャラクター、同じセリフでも演出によって全く違うものになります。シェイクスピアのいいところは、たくさんの人・場所で作られているので、演出を見比べることができます。今回の彩の国シェイクスピア・シリーズの『ヘンリー五世』を観る前に、ほかの『ヘンリー五世』を観て演出を比べると新たな発見があり、面白いのではないでしょうか。
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2つの演説から『ヘンリー五世』の隠れた影響を教えてくださいました。観たことがない知らない作品でもどこかでつながっているのかもしれません。
第3回は日本シェイクスピア協会会長の井出新先生による「『ヘンリー五世』とロンドン市民の英雄像」になります。
講師プロフィール
北村紗衣(きたむら・さえ)
武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち−近世の観劇と読書』(白水社、2018、単著)、キャトリン・モラン『女になる方法—ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記』(青土社、2018、訳書)など。
◆彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾『ヘンリー五世』公演情報はこちら
◆彩の国シェイクスピア講座Vol.2「『ヘンリー五世』徹底勉強会」情報はこちら
◎第1回レポートはこちら
◎第3回レポートはこちら
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