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彩の国さいたま芸術劇場 |

音楽

【11月11日(土)開催 ピアノ・エトワール・シリーズ Vol. 32】 ケイト・リウ インタビュー

2017年7月26日

 

この秋、日本での初リサイタル・ツアーを行なうケイト・リウ。
ツアーに先駆けて、お話を伺いました!


※詳しい公演情報はこちらからどうぞ!

 

─プログラムはどのように選びましたか?

 ショパンについては、コンクール時と違った曲も入れて、私が表現できることの別の面も見ていただこうと、第2番「葬送ソナタ」を選びました。自分のキャラクターに合うと感じている大好きな作品です。ソナタ第2番には、第3番とは違った種類の緊張感と、よりストレートに聴き手とコミュニケーションする力があると思います。


─マズルカ賞を受賞したマズルカOp.56も演奏されます。マズルカの魅力はどんなところに感じますか?

 他の作品以上にピアニストの個性が現れる作品です。演奏家が絵を描くようなところがありますね。弾く上ではすべての心と魂を込める必要があります。半分だけではダメ。全部投入するか、演奏しないか、そのどちらかしかありません。自覚する以上に自分自身が露わになり、感情が率直に現れる作品です。


─ブラームスからは「4つのバラード」を演奏されます。

 ブラームスは大好きな作曲家です。この曲を勉強しようと思ったのは、エミール・ギレリスの演奏を聴いたことがきっかけ。聴いた瞬間に心を奪われ、自分ならこの曲でこんなことを表現したいというアイデアが浮かび、作品をもっと知りたいと思いました。
 もともとバラードとは物語を歌うものですが、ブラームスのバラードはショパンの叙情的に歌うバラードともまた違う、独特の語り口を持っています。対面してストーリーを語り掛けるような……もしかしたらギレリスの解釈で聴くからかもしれませんが。
 弾き方によっては実験的な作品に聞こえるかもしれませんが、正しく演奏されるとまったく違う世界が広がります。ブラームス初期の作品ですが、例えばギレリスが演奏すると、まるで円熟期の作品のように感じられるのです。
 伝えたいことがたくさんある作品なので、今回プログラムに入れることができて嬉しいです。


─5月にカーティス音楽院を卒業し、秋にはニューヨークに移るそうですね。

 はい、9月からジュリアード音楽院で勉強します。引き続きロバート・マクドナルド先生と、新たにヨヘヴェド・カプリンスキー先生に師事します。
 マクドナルド先生は、私にとって絶対に必要な存在。これまでいろいろな問題を乗り越えることを助けてくださいました。おかげで今の自分があります。


─コンクール入賞により、ピアニストとして心境の変化はありましたか?

 今していることを続け、前に進んでいいと“青信号”をもらった感じです。コンクール前は、これだけ偉大な音楽家が多くいる中、自分がピアノを弾く意味はなんだろうという迷いがありました。でも入賞のおかげで、自分が音楽を通して伝えたいことは誰かにとっても意味があり、自分の中には分かち合うべきものがあるのだと確信できるようになりました。


─良く通る魅力的な音をお持ちですが、自然に充分な音を鳴らす方法はいかにして見つけたのでしょうか。

 若い頃は、自分の音、ルバートやフレージングの重要性をよく理解していませんでした。その大切さに気付いたきっかけは、音楽院の友人、エリック・ルーがソコロフの録音を紹介してくれたこと。ソコロフの演奏には魂が宿り、何かを伝える強い力がありました。それに衝撃を受けて、私も自分の音の個性を意識し、特別な音がするピアニストとはどんな存在かを考え、練習室での模索を始めたのです。
 音楽院での5年間で、マクドナルド先生は私に、体をリラックスさせて音を出す方法、欲しい音をいかにして鳴らすのかを教えてくれました。
 ですから、私が自分の音を見出し始めたのはコンクールの少し前、ごく最近のこと。今より特別な音を鳴らしたいという思いで、これからも探求を続けたいと思います。

 

(2017年5月東京/取材・文:高坂はる香)