彩の国さいたま芸術劇場


ナチョ・ドゥアト インタビュー

取材・文:佐藤友紀(ジャーナリスト)

「『ロミオとジュリエット』の物語にはずっと前から惹かれていた。これは僕にとって初めての全2幕物だし、創ってから10年経つ今も大切な作品だよ」
スペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督を務めるだけでなく、世界中の名だたるダンサーが「彼の振付作品を踊ってみたい」と切望することでも知られるナチョ・ドゥアト。傑作と噂の本作は、生命感にあふれた力強いものだった。
「音楽をプロコフィエフ版にしたのは、ストーリーを語るのに一番適していると思ったから。モーリス・ベジャールが使ったベルリオーズ版では短すぎるうえにちょっと散文的になってしまうし、チャイコフスキー版だとスウィートすぎるだろう(笑)。それに僕にとってプロコフィエフの音楽は、シェイクスピアの原作と共に創作の素になっているんだ」
 ナチョの『ロミオとジュリエット』の特徴の一つとして、ジュリエットが可憐なだけでなく、自ら運命にとび込んでいくような行動力をその存在感、踊り、演技から感じさせるというのがある。
「そう! 僕らのジュリエットは、イノセントで弱くて皆で守ってあげなくちゃならないようなヒロインではない。確かに年齢からいっても人生経験は少ないかもしれないが、好奇心に満ちあふれ、何よりも生きることに積極的で、家の敵であるロミオとの恋に突き進む勇気もある。でもこういう風にビビッドなジュリエット像は、僕が大好きだったフランコ・ゼフィレッリ監督の映画『ロミオとジュリエット』のオリビア・ハッセーも見せてくれている。それだけ生命感のある人間っぽいジュリエットだからこそ、余計に悲恋の結末が心に浸みるんだよ」
「人間っぽい」といえば、ナチョ版『ロミオとジュリエット』は、通常大した踊りのパートを割り当てられていないジュリエットの母親ですら夫キャピュレット卿だけでなく、娘ジュリエットの結婚相手候補パリスとのデュエットを踊るなど、単なる脇役に甘んじていない。
「確かにジュリエットの母親にあそこまで踊らせるヴァージョンは少ないだろうな(笑)。でも考えてみたら、彼女だって母親というイメージの中年女性ではなく、まだまだ若いんだ。ジュリエットに「あなたの年頃にはあなたを産んでいた」と言うくらいだから、せいぜい28、29歳といったところで。だとしたら、彼女だって自分の感情を出すべきだと思ったんだよ。それに、こうしたロミオとジュリエットをめぐる個々の人物を誰と踊らせるかによって、この物語の単純じゃない人間関係も浮かび上がってくるはずだからね」
 スペイン、サン・クガットの公演では、ロミオの親友マキューシオが大きな拍手をもらっていたが、現役時代は優秀なダンサーとして知られていたナチョも、あの役、踊りたくなったのでは?
「いや、僕はあそこまでお調子者じゃないよ(笑)。自分が踊るんだったら、むしろジュリエットのキャピュレット家側のティボルトかな」
 その敵対するモンタギューとキャピュレット、各々ちゃんと特徴づけられているのもユニークだ。
「観客にとってもその方が親切だと思ったんだ。特に乱闘シーンなんか、どっちがどっちかわからなくなるだろう(笑)。で、マキューシオのいるモンタギュー側をより庶民風というか農民、商人風にして、ティボルトのキャピュレット側を貴族的にした。2人の性格分け上も納得できるんじゃないかな」
 そんな細かい点まで楽しめる舞台、評判にならないわけはない!