彩の国さいたま芸術劇場


近藤良平×森下真樹 インタビュー

文=稲田 奈緒美(舞踊評論家・研究)

近藤良平「はなさかじいさん」

「日本昔ばなしのダンス」の第一回公演で『ねずみのすもう』を愉快な趣向で披露し、会場を沸かせた近藤良平。今回、彼が選んだのは、誰でも知っている『はなさかじいさん』だ。
「なんの話にするか、決めるのに時間がかかったんだよね。あれこれ考えて、一周ぐるっと回って、結局誰でも知っている話にした。でも、みんなに聞いてみると、知っているようで実は知らない。本によって話が少しずつ違うし、題名も“はなさか”と“はなさき”がある。昔ばなしも変化するのが普通なんだね。コンテンポラリー・ダンスと同じで、時代によって、場所によって、いろんな人がアレンジして書いている」
ゆえに今回は、物語を追って表現するだけでなく、近藤風に発想を自由に膨らませた『はなさかじいさん』になるようだ。近藤の発想の豊かさは、既にコンドルズでお馴染み。ダイナミックなダンスシーンの後に、小さな指人形が出てきたり、シュールなアニメやコント、音楽演奏が始まったりと、固定概念に捕らわれて凝り固まりやすい私たちの頭に、見事に、爽快に、心地よい風穴を開けてくれる。今回は、ポチが100匹登場するかもしれないし、昔ばなしの定石どおりに勧善懲悪では終わらないかもしれないのだ。
最近近藤は、江戸時代の浮世絵師たちが描いた、人の姿で文字を描いた当て字や騙し絵のおもしろさに驚いたと言う。
「一見くだらないと思うことでも、その発想がいいなあ、と思ったんだよね。昔の人の遊び心、心持ちというか、ゆとり、貝独楽のような遊びの文化、そんなことを裏テーマにするかもしれない。それから、子どものワークショップをやっていて思うのは、子どもは頭で思って口に出すことと、からだの反応が違うということ。変な動きをすると、“きもーい”とか言いながら、からだでは喜んで真似をするんだよね。こちらが一生懸命におもしろがれば、子どもも面白がるはず」
遊び心を極めれば、子どもも大人も楽しめる。面白くて洒落っ気があって、奇想天外なダンスになることは間違いない。

森下真樹「うらしまたろう」

近藤の『はなさかじいさん』には、コンドルズの男性ダンサーばかりが出演するのに対して、森下真樹の『うらしまたろう』では女性ダンサーばかりが登場するらしい。こちらも、誰でも知っている昔ばなしだが、近藤と同様、どのように話が発展、転換するのかわからない。
「私は普段から作品を創るときに、どれだけ妄想できるか、にかけているんです。今回は誰でも知っている話だからこそ、ストーリーを追うだけでなく、どれだけ脱線できるか試してみたいですね」
ユニークで、いつも笑いに包まれる森下の振付の基準は、「子どもが真似したくなるようなもの」であるという。それは、様々な劇場や小学校で、子どもたちのワークショップを続けてきた成果でもある。
「子どもには嘘がつけないなあ、と思います。嘘を言うとすぐにバレるし、本音でぶつからないとついてきてくれない。子どもにウケるものというのは、相当なインパクトがあるものだと思うんです。だから、子どもが動きを真似してくれると嬉しいし、家に帰ってお母さんに教えたりしてくれたら、本当に嬉しいですね」
こんな森下のサービス精神は、転勤族の親について小学校を3回も転校したという経験が土台になっているという。
「早く友達を作るために、いろんな遊びを考えたんです。その遊びの延長で、今もダンスを作っているのかもしれませんね。7月の新作公演では、ダンサーにそれぞれ呪文を考えてもらって、それを使いました。私が小学生のままなのかもしれないなあ」
とは言え、大人になった森下の遊びは真剣である。
「本音の大人を見せてやる、こんなに面白いんだぞ!って、子どもも大人も楽しめるダンスにしたいですね」
現在決まっているのは、森下が「うらしまたろう」を踊るということだけ。しかし、竜宮城の乙姫様か、はたまた、タイやヒラメに変身するかもしれない。このうらしまたろうは、玉手箱をあけて見なければ、どんなダンスが飛び出すかわからないのである。